イエローキッド

この作品が劇場長編作品デビューとなる、真利子哲也監督の青春映画。

500円のパンフレットを買ったら、黒沢清監督との対談はついてるわ阪本順治監督のコメントが載ってるわ
さらには評を書いてるのが山根貞男氏でしかもやたらと長文だわでびっくり。多分こういった人たちの中からも高い注目を集めているんだろう。
自分は結構前のNHKのニュースのコーナーの一角で見かけてはいたものの、それ以上は知らなかったけど。

物語は、ボクサー志望の青年と漫画家を主軸として描き、同時に漫画が同じように進んでいくという新鮮さだ。

ボクサー志望の青年は、冒頭のバイトの場面があるように不器用ながら、ボクサーとして夢を見ながらも悪い先輩から離れられずにいる。そして認知症気味の祖母を
介護しながら行き詰っている。この設定自体は今の時代は感じさせるものの、それほど新鮮で斬新ではないと思う。

片方の漫画家は、ちょっと人間としての明らかな小ささを感じさせるようだと思った。というか演じている俳優が出している味が自然とそれを加速させる。

こちらも不器用な人間とはいえ、別れた女性に未練たらたらで、当時に漫画家・つまり作り手としての一種の性なのか、他人のイメージに入り込もうとしている。

盗み聞きしながらオ●ニーしてる場面は、未練たらしい面とイメージに入り込もうとする面の両面だろう。

というか「パレード」に引き続きまた男性がオナ●ーしてる場面を観たわけだ。

ボクサー志望の青年にはどうしても感情移入して応援したくなってしまうのに対し、漫画家はいちいち笑ってしまう。

この映画、たったの十日間で撮影されたとは思えない、出色の場面がある。

映画がグッと展開を早めていく一つの転換点でもあるけれど、漫画の進行と合わさって主人公が商店街を歩いてるところで人間が変転するあの長回しで捉えた場面。

そして、お金を宙に撒く場面。そしてギュっと画面が締まる終盤の襲撃シーンだろう。

話は逸れるけど、自分が現役で(ああ、現役だ)最も好きな日本映画の青春映画の巨匠は、長谷川和彦監督(以下ゴジさん)だ。

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というか、「太陽を盗んだ男」が金字塔的作品である。あの映画に呪われたかのように、あの映画を愛している。去年の特集上映にも足を運んだ。

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太陽を盗んだ男」がどういう映画かはさしたる説明はしなくてよいでしょう。というより長くなるからしない。

もちろんそれ以降の日本の映画をすべて観ているわけではないけれど、あの映画を超える素晴らしい青春映画なんて無いままなんじゃないか?とすら思ってる。

とりあえず自分にとっては、無い。だからリアルタイムであの映画を観た人たちが羨ましいとすら思ってる。

なぜか。あの映画には、自分が見たいと思ってるものほとんど全てが詰まってると言っていいからだ。

あり得ない話を現実味を帯びさせる。人気俳優の共演で極めて大胆な作風。今観てもきちんと「時代」を感じさせる。そして青春映画。

言い方は悪いかもしれないけれど、そもそも娯楽映画なんである意味豪快で無駄な贅沢と言っていいかもしれない。

商業性を重視しながら、やるなら怖いもの知らずでパーっと派手にやってしまうことはとても気持ちがいいものだ。

黒澤明監督の映画で出血が大噴射しているのを観ると壮観だ。そういう意味もある。

何より映画を監督で観ることが多い自分にとっては、監督の人柄というか、直球で素朴で大胆不敵でかつ優しい、そして希有な才能が勝手ながらも見えると思ってしまうからだ。

あの青春映画の金字塔と何でも比較してしまう気はないけれど、いつかあれ以上の青春映画に出会いたいと思ってる。

この映画を観ていて、不思議とゴジさんの映画が頭をよぎってしまうことがあった。

無論映画の中で描かれている規模も経緯も違うけど、主人公の青年がお金を撒くシーンは、「太陽を盗んだ男」で主人公がお金を撒かせるあのシーンが不思議とちらついたのです。

加えて、もしかして主人公の青年は、ゴジさんの映画の主人公がたどるような、それを思わすようなラストを迎えるのではないかと思った。

だけどそうはならない。時代が違うからでしょう。(注2)

ただ何かを予感させてくれた。かなり興味をそそられる新人だ。少なくとも内田けんじ監督や横浜聡子監督を始めて知った時ほどの感触はする。

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もしかしたら上記したようなゴジさんのような凄い映画を作ってくれるかも。期待大。

必見だと思う。

点数=☆☆☆☆

渋谷ユーロスペース

原題:イエローキッド  映画

監督:真利子哲也

脚本:真利子哲也

撮影:青木穣

音楽:鈴木広志 大口俊輔

出演:遠藤要 岩瀬亮 町田マリー 波岡一喜

プロデューサー:原尭志

公式サイト:http://www.yellow-kid.jp/

配給:ユーロスペース

(注2)は詳細に触れます。


注1
というか、自分はてっきり女がヴァンパイアとなったところで神父にとって背徳が極限に達したから、てっきりこの映画はそこで終わりかと思ったので、
その後がまだあったので本当に驚いた。

そんなところで終わらせないのが、いまの韓国映画の真骨頂なんだろう。とにかく登場人物をとことんまで追い詰める。

少しでも罪深き者に対しては容赦しないのだから凄い。映画にみられるそのストイックさはなんなんだろうか。

注2

最後の最後にまたひとつ仕掛けて、漫画家の妄想ととれるような展開になっているから。ただそれも二重なのではっきりと判別できない。

ただ、彼はヒーローでは無いという風には思う。ヒーロー的ならば、少なくとも後ろから狙われるシーンは入れないでしょう。

いままであった手法を使って逆に新鮮なものにした遊び心溢れる映画でした。