ペルシャ猫を誰も知らない(バフマン・ゴバディ)
渋谷ユーロスペース
No One Knows About Persian Cats イラン映画
監督:バフマン・ゴバディ
脚本:バフマン・ゴバディ ロクサナ・サベリ ホセイン・M・アプケナール
出演:ネガル・シャガギ アシュカン・クーシャンネジャード ハメッド・ベーダード他
撮影:トゥラジ・アスラニー
製作:ミジ・フィルム(バフマン・ゴバディ監督により設立された製作会社)
配給:ムヴィオラ
好感度=☆☆☆★★★
イラン生まれのバフマン・ゴバディ監督による、自由を規制されながら音楽に情熱を傾ける人々を描いた青春映画の傑作。
映画冒頭にも出ますが、実際の事件や場所、人物に基づいた物語であるそうです。
現在も何かと揉めているようですが、公式サイトにもあるようにイラン当局に無許可でゲリラ撮影を行った衝撃作・・・と書くと、重苦しくて身構えてしまいそうですが、これが予想外にとぼけた笑いや茶目っ気があり、そして特に演奏シーンの際はヴィデオクリップのようなカッコよさも溢れた映画でした。
僕はこの映画を、物語の流れに身を任せるように観ながら、細部に効いた細かな魅力を堪能しましたので、そのあたりについて書きます。
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いきなり素晴らしいのが、やはり偽装はおまかせ老人ダウットが登場するシーン。
この老人の元に行く際に、ペットの小鳥が登場するのですが、そこで出る名がモニカ・ベルッチ氏。
で、老人の会話がまた笑える。戦争映画とロマンス云々について語るところも良いですが、ここで出てくる名前が、マーロン・ブランド氏、アル・パチーノ氏、ロバート・デ・ニーロ氏に、ニコラス・ケイジ氏。マーロン・ブランド氏の名はその後も出てきます。
あまり細かに書いてしまうとこれから観る人にとってはつまらなくなってしまうので列挙するに留めたのですが、要するにイランの映画なのに、イランのイメージを打ち壊すかのような事柄が細部に至るまで次々と登場するんです。
次に秀逸なのが、牛舎のヘヴィメタル・バンド。これから観る人にとってはなんのこっちゃという感じでしょうが、彼らにも音楽狂とでも言うべき愛らしさを感じてなりませんでした。肝炎なんて怖くない。笑い飛ばせ、叫んで、轟音演奏とともに吹き飛ばせと言わんばかり。
ひたすら停電に悩まされるバンドが登場するシーンには、ちらりとニルヴァーナの故カート・コバーン氏のポスターが映った気が。そしてそのバンドのドラマーは、気のせいかデイヴ・グロール氏に似ていたような。
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まあ、こんな感じで細かい魅力に見入ってしまう映画だったんですが、加えて、これもイランという国のイメージを打ち壊してやる!と言わんばかりの、本当に色んな”若者たちの音楽”といった音楽が続々と登場。ヒップホップが特に好きだなあ。
ナデルという、ちょっとお調子者だけど憎めないヤツが最高に魅力的。何でもイランでは名優といわれる俳優が演じているらしいです。途中彼のために用意されたんじゃないか、と思ってしまう「ひどい目にあってるのに観ていて可笑しい」そんなシーンを「覗き見る」こともできます。
けれど、そんなナデルにもつらい試練が訪れる。そして、映画を観終わった後は思わず天を仰ぎたくなります。
苦いんだけど、それでもどこか爽やかな、そんな複雑な感覚を抱きます。
「世界は完璧じゃない」という、劇中の何気ない言葉が印象的でした。
夏のフェスティバルまっさかりの今ピッタリな映画です。
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