この自由な世界で

監督ケン・ローチ
脚本ポール・ラヴァーティ
主演カーストン・ウェアリング
本年ベスト5に入るかもしれない大傑作。競争社会の中では「勝つこと」と「負けること」は同時に存在する、そんな映画。勝者がいるなら敗者がいる。今、この時代に作られて、この時代に棲息している僕は、本当に観れて嬉しいと思った。まさに、今観るべき作品。イギリスの労働者、そしてその問題を捉えながら、まるで日本を観ているよう。今、どんな時代に生きていることを自ら意識する意欲を失えば、格差社会が犠牲という存在があって成り立つ社会構造だという、当たり前なことすら見落としかねない。その上不法移民問題で世界を切り刻む。

丁寧な脚本も素晴らしい。本年ベスト脚本。観賞後拝読してる映画ブログの方の情報によると、キャストは経験が豊富でない人もいるそうだけど、とても良い。

アンジーは確かに「間違った」行動をする。だけど部分的に(全てではなく)「頑張れ!」と思ってしまう自分がいる。どうしてもアンジーに憧れが出てしまう。カロルの「お金が全てじゃない」ローズの「なにをしても自由なの?」とても突き刺さる言葉だけど、正論とも綺麗言とも結論とも、まして間違いとも取ることはできない。一人、今とは異なる社会構造の中で、薄給なれど永続的な雇用で生きてきた隠居の爺様だけが聖人君子のようだ。

点数
☆☆☆☆☆

以下、ネタバレ含みます。これから観ようという人で、たまたまここを訪れた方は、読まないほうがいいでしょう。ここはレビューなんて大層なものではなく、自己満足感想文です。で、観た人がコメントしてくれたらいいやくらいしか考えてません。文字の隠し方も知りません。

僕は秀逸な映画に出会うと、登場人物に感情移入しやすい。大傑作【ミスト】を観た際も主人公に感情移入したので「ここまでしなくても!」と思った。確かに間違ったことをしても、息子を守るため、まさに「現代女性」のアンジーが生きるため頑張ったんだから、暗い未来が想像される泥沼に落ちていくまま終わるより、アンジーや労働者が、この時代の中での自分の価値を発見するような感じの結末がほしかった。でも、いくら何でも欲張り過ぎかな。そしてケン・ローチはそんな生易しい押し付け映画は作らない。答えは人それぞれか。自分で考えろってことか。そういえばこの監督、前作も「問題提起」で終始する監督だった。最悪にリアルな物語だった。息子を心配してるのに、結局心配させてしまうところが好き。あと、息子がピザ食べて咳き込むところ。虹の解釈ができるところ。
後半の息子の変化が、アンジーの手にしたものかも・・・
でも【ゼア・ウィル・ビー・ブラッド】のように、ひたすら家族や神すら蹴落とす主人公も好きだし、自己を犠牲として他者を救わんとする【イースタン・プロミス】も好き。【ノーカントリー】や【接吻】、【ダークナイト】のように、理解困難な人物が出てくる「共感拒否」な映画も好きだ。そういえば【実録連合赤軍あさま山荘への道程】は「共感なんてクソだ。」と感じさせるものだ。だから映画は不思議。
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