「恋人たち」(橋口亮輔監督)

出演 篠原篤、成嶋瞳子池田良

テアトル新宿

座席位置 2列目中央

評点・・・☆☆☆☆ ダンゼン優秀!

以下、facebookより転載


お題
橋口亮輔監督「恋人たち」が描く、愛と復讐と報復の行方〜

筆不精なのでいつも書くのが遅くて公開終わっちゃってたりするんで、たまには早めに書きます。

橋口亮輔監督「恋人たち」観ました。さすが待望されていたカリスマ監督の久しぶりの長編映画復帰とあって、映画館は満席に近い状態でした。

数々の映画賞を受賞した「ぐるりのこと。」以来、7年ぶりです。思えばあの作品が公開された年は凄かった。今は無き若松孝二の集大成「実録・連合赤軍」もあったので、日本の現代史を総括した映画がそろい踏みしていました。

さて、映画のあらすじはググれば出てくるので置いておきます。さっそく私の感想を書きます。

この映画は群像劇の体をなしていますが、中心にいるのは篠原篤という無名の俳優が演じる青年です。

彼は、愛する人を通り魔に殺害されたという設定。

映画というのは、テレビと違って、企画してから公開されるまで時間を必要とするので、そんなにご時世にタイムリーに登場するということは、あまりない。かのクリント・イーストウッドも、「映画で世界は変えられない」と言いました。

でも不思議な運命も時々ある。この映画は運命的な時期に登場しました。

私はこういうことを書くキャラじゃないので、普段はSNSで触れないんですが、たまには大目に見てください。

みなさんご存知のように、フランスで大規模なテロがありました。

大変痛ましいと思ってます。

今日映画観たら偶然キネマ旬報東京友の会の人と会いました。この会はリテラシーの高い人間の集まりなんですが、飲みながらこういう話もしました。アメリカがどちらかというと穏健なバラク・オバマの政権なのでどうなるかわかりませんが、フランスのオランド大統領は全面対決という態度です。まあこれは、ヨーロッパで極右勢力が台頭しつつあるという背景もあるのかもしれません。

私はいま、もの凄い既視感を感じます。私には、オランド大統領がブッシュ元大統領に見えてきました。

そうです。911です。アメリカは、911以後大規模な戦争をしかけました。あの頃は世界中が、「やっつけてやれ」な空気だった。

しかし結果として残ったのは、夥しい数の死体の山と傷跡だけというのは、誰の目に見ても明らかです。

報復攻撃は、何も生み出さなかったのです。

この映画の主人公は、通り魔の犯人を殺してやりたい、なんとかして復讐したいと思ってます。被害者感情をここまで真っ向描いた映画は、瀬々敬久監督の超大作「ヘヴンズ ストーリー」以来かもしれません。

しかしこの「恋人たち」の主人公が選ぶ道は・・・それは映画を観てほしい。

だから、偶然にもこの時期に公開されたことに強い意味を持った映画です。「報復の思いとその行方」が描かれているんです。

ついでだから言うと、私は安保法案に反対の立場をとってます。その理由は長くなるから書かないけど、それは私の一思想に過ぎないから大目にみてほしいです。全ては投票で意思表示しています。

今年は塚本晋也監督が作ってロングランヒットになった「野火」という映画もありました。もともと昨年秋の東京フィルメックスで発表されてるので、完成はだいぶ早いものの、これも運命的にタイムリーな作品になりました。
なぜか。この映画はもともと昔に市川崑が映画化しているのを別視点で再度映画化したものですが、この映画、「いつどこの」話か、まるで言わないのです。だから観ていると、「まるで現実にどこか遠い国で日本人が戦争に参加してる」そんな錯覚すら覚えるのです。まるで(言い方は悪いかもしれないけど)「このご時世にあえてぶつけてやった」そんな意図すら感じました。これを観る限り、恐らく塚本晋也監督も安保法案に反対の立場でしょう。

そりゃ、人間だ。誰しも大事な人の命が奪われれば怒りに燃える。だからこそ、橋口亮輔監督が「恋人たち」で描いた主人公の行く末を観て欲しい。

フランスのテロの話に戻ります。先進国でここまで大規模な被害が出たテロは、911以来です。しかし、誰も言わないから私が代わりに言います。忘れ去られていますが、日本も戦後大きなテロにあっているのです。私はこれをテロと断言します。連合赤軍が起こした「山岳ベース事件〜あさま山荘事件」とオウム真理教が起こした「地下鉄サリン事件」。

だから、テロというものに多くの人に敏感であってほしいです。だから異論反論が飛び交ってるけど、Facebookのプロフィール写真をフランス国旗にすることは、悪いことだと何とも思わない。いきなりみんな変えるんでビックリしたけど。

ただ覚えてほしいことがあります。テロを「防ぐ」ことは、事実上不可能なんです。これは断言できます。誰も911も、連合赤軍事件も、地下鉄サリン事件も、予測はできなかったです。

ところで、テロというのはフランスでいきなり起こったわけではなく、ほぼ日常茶飯事でどこかで起きてる。そんなことみなさんご存知ですけど。

ここでひとつおすすめ映画。「パラダイス・ナウ」。これはパレスチナ自爆テロリストを自爆テロリスト視点で描いた映画で、私が知る中でも傑作であり札付きの超問題作。何せ911以後に公開されて、アメリカで映画賞などの候補になりながらも、上映反対運動まで起きました。

日本ではDVD化されてます。吹き替えを担当しているのは窪塚洋介くんと井浦新くん。観たら腹が立つ人もいるとは思いますが、観たら視点が変わるかもしれませんので、よかったら。

長文失礼しました。たまにはと思い、普段あまり書かないことを書いてみました。

ぐるりのこと。 [DVD]

ぐるりのこと。 [DVD]

実録・連合赤軍 あさま山荘への道程 [DVD]

実録・連合赤軍 あさま山荘への道程 [DVD]

パラダイス・ナウ [DVD]

パラダイス・ナウ [DVD]

塚本晋也×野火

塚本晋也×野火