「ベトナムの風に吹かれて」(大森一樹監督)
渋谷アップリンク
座席位置 最前列中央
評点・・・☆☆☆★★
以下、facebookより転載
ちょっといつもと視点を変えて書きます。
私はどちらかというと、映画を監督で観ることが多いです。でもこれは身内が脚本を書いてるので、脚本視点で書いてみます。
物語は、ベトナムで日本語教師を営む娘(松坂慶子)が、日本へ帰国した際に母(草村礼子)の認知症が進んでいるのに気づき、周囲の反対をおしきり、母をベトナムに連れていき共に暮らすことにするところから始まります。だから映画の舞台はほとんどがベトナムです。
要するに、介護の話。
観た後にホームページを見て知ったんですが、日本とベトナムの合作はこの映画が初めてらしい。
映画がちょうど半分を過ぎたあたりで、奥田瑛二氏が出てきます。ここでベトナム戦争時の学生運動の話が語られる。それ以外にも、日本とベトナムの歴史関係が映画の中では度々語られます。
ともすると「盛り込み過ぎでは?」と思われそうですが、私はこれこそこの映画の脚本の魅力だと思いました。ただ単純に「ベトナムに住む日本人」の物語にしなかったのは正しいと思う。
主題は、認知症の母の介護。
観ていて途中から、「アレ?認知症がテーマじゃないの?全然語られなくなってしまった」と思ってたんですが、後半でそこに重きを置いて物語を閉じるので、身内褒めになって気持ちが悪いけど、脚本はよくできていた。
この脚本の北里氏という人物は前述のとおり知人なんですが、もの凄い映画に対して辛口というか、ダメだと思った映画に関しては徹底的に論破する人物なんですね。普段から厳しいだけのことはある。いやいや良い脚本を書いています。
ただ、監督の演出がなあ・・・かなり物足りない。なんというか、こういう言い方するとテレビドラマより映画のほうが上だと言ってるような誤解をされそうですが、映画を観てるというより、二時間ドラマを観てるような感覚でした。1スジ・2ヌケ・3ドウサという言葉が映画にはありますが、残念ながら三拍子揃ってない。
大森一樹監督って、かつては凄い監督だったんですよ。でも正直ピークを過ぎた感が否めない。というより、最近の映画をちゃんと観てるのかなあ。現代的な感覚が感じられない。
というわけで、脚本の北里氏は先輩でもあるので、これからも脚本を書いていくであろう北里氏が、どんな監督と組んだら光るか
考えた。
やはり介護等に北里氏がこだわるなら、真っ先に出てくるのは名匠森崎東監督。この方が演出したら、北里氏の脚本を見事な重喜劇にしてくれそうだ。ただ、現実味が無い。森崎東監督は映画賞表彰式でお見かけしたことがあるんですが、もはや歩くのも大変なくらいヨロヨロの老人。新作があるか、かなり期待薄。
ならば、大森一樹監督と同世代の金子修介監督はどうだろう。この人は今でもメジャー・非メジャー問わずコンスタントに秀作・佳作を作り続けていて、職人肌で巧い。おそらくいまの日本映画も観ていそうだ。
若手だと、完成されてきたタイプだと石井裕也監督、発展途上なら小林聖太郎監督あたりもいいかもしれない。とにかく喜劇が撮れる監督がいい。
というわけで、北里氏の脚本には合格点を付けたいので、今後より良い監督と出会い、また新作を作ってくれることに期待します。