人間失格(荒戸源次郎)
原題:人間失格 日本映画
監督:荒戸源次郎
脚本:浦沢義雄 鈴木棟也
撮影:浜田毅
音楽:中島ノブユキ
主演:生田斗真
原作:太宰治
公式サイト:http://www.ns-movie.jp/
製作総指揮:角川歴彦
配給:角川映画
点数=☆☆☆★★
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ご存知太宰治文学の中でも特に有名な「人間失格」の映画化。人間失格の人が「人間失格」観ましたとさ。
監督は傑作「赤目四十八瀧心中未遂」以来となる、かつて鈴木清順監督の映画を手掛けたことなどでも知られる荒戸源次郎氏が始めてフリーランスとしての立場で映画に携わったとのこと。
主演の大庭葉蔵を演じるのは、これが映画初主演となる生田斗真氏。
この映画を観てまず思ったのは、文学「人間失格」とは葉蔵を描くことに対する視点が変わっていたりすることなどを含め、文学「人間失格」を念頭に置くといくらでも難が付くし、「赤目四十八瀧心中未遂」と比較すると暗さとしつこさが無くなっていることは否めないけど、「赤目四十八瀧心中未遂」ファンとしては、荒戸源次郎さんは条件が充実するとこんなに安心して観ていられる映画を監督することができるのかと、その監督としての隠された資質に驚かされた。むしろ映画全体の安定感では根岸吉太郎監督作品「ヴィヨンの妻 〜桜桃とタンポポ〜」に比肩するような気さえした。比較して悪いけど、最近の若い監督に同じ条件で撮らせてもなかなかこうはならないだろう。
これは映画人生の経験値なのかな。
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やたらと役者陣が引き立てられているのは、もともと荒戸源次郎監督が製作をしていた立場の人間であるというセンスからくるものだろうか。
これと総合的な演出で、「赤目四十八瀧心中未遂」にはなかったような「サービス精神」があって、何だか「眼福」な映画だ。
荒戸源次郎監督で人間失格?と疑ってたんだけど、意外と良かった。
役者たちとこの映画に絡めて書いてみる。
生田斗真氏による大庭葉蔵は、素直な文学「人間失格」の葉蔵を再現するものではなく、「赤目四十八瀧心中未遂」で大西滝次郎氏が演じていた人物の、文学「人間失格」の葉蔵に照らし合わせたある種の発展形だと思った。
なぜなら社会や周囲の環境の中で孤立したかのように思い悩む点が強調され、逆に他の事象を見て偉そうに語るような個人的には文学「人間失格」で最も嫌っていた(笑)ような点は影を潜めているからだ。終盤で彼が抜け出すように動きだしていく様も特に似ている。
今回の三田佳子氏の立場が葉蔵に与える影響が、「赤目四十八瀧心中未遂」の寺島しのぶ氏演じる立場に近いと思う。
生田斗真氏は映画やドラマでは始めて観たけどこれがなかなか良く、欲を言えば役柄上もう少しやつれていると尚良かった。
やつれても美しき青年は変わらないだろうから。まあ大西滝次郎氏もあの役を演じるにはギラギラし過ぎていた気がしていましたけど。
それで三田佳子氏と坂井真紀氏がエライことになってる(笑)彼女たちのファンならマストアイテムとなる映画だろうなコリャと思った(笑)
坂井真紀氏の大袈裟演技と座る際に尻を動かすところは吹いた(笑)三田佳子氏は輪をかけて強烈(笑)室井滋氏は役得だ(笑)
これほど「美しい青年とそこに連なる女性たち」がわかりやすく描かれてる映画も無いよなあ(笑)
伊勢谷友介氏のファンには申し訳ないけど、彼は僕が苦手としている俳優なんだけど、今回あのダミ声があまり気にならなかったのに驚いた。ちょっと随所で長井秀和氏を彷彿とさせる点があったけど。
原作には登場しない中原中也を演じる森田剛氏。原作を意識していると何で出ているんだ?主演男優と同じジャニーズ事務所だからオマケみたいなもん?なんて思う人もいるかもしれない。いや実は最初は僕もそう思ってたんですけど。
僕が観るに荒戸源次郎監督がこの映画をやるには彼の存在こそ不可欠で、むしろもっと登場しても良いくらいである。伊勢谷氏演じる堀木より重要と言えるかもしれない。
森田剛氏演じる中也は、なんだか「陽炎座」の原田芳雄氏っぽいようなスタンスで映画に登場し、そしてその後こそがひたすら重要で、主人公に幻想的な感覚で持って「生と死」「この世とあの世」の影響を与えていくというのは、現代で言うところの横浜聡子監督の作品のような、かつて荒戸源次郎氏が手掛けた鈴木清順監督の名作といわれる作品でやっていたことを、「人間失格」の中で荒戸源次郎流にやってみせたものではないだろうか。冒頭タイトルが出る寸前の、音楽と同時に挟まれるカットがどこかデジャヴュであること、そして「赤目四十八瀧心中未遂」が鈴木清順監督作品への意識をどこか感じさせるものだったのと同様ヒントなんじゃないか。序盤に伊勢谷友介氏と生田斗真氏が小舟に乗ってる場面もそっくりなシーンがあったような。
ここら辺は久しぶりに鈴木清順監督作品を再見して確認したい。
つまりは最近の太宰映画の中だと「ヴィヨンの妻 〜桜桃とタンポポ〜」や「パンドラの匣」とはまた違った意味で、監督の色が反映されている映画と言えるのかもしれない。最後「わざとかよ」みたいに解釈に苦しむような終わり方をするところもそんな感じだ。
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関係無いんだけど石原さとみ氏って、今になって元モーニング娘。の石川梨華氏に似てる気がした。
それで原作にもある例の葉蔵と石原さとみ氏演じるヨシ子の関係が壊れるきっかけになる場面。別に裸になっとけとは言わないまでも、せめてボロボロに乱れた服装にはなってくれれば・・・
あの場面、これは映画なんで文字ではなく画で語るわけだから、原作読んでないと変に誤解する人がいるのでは?
こういう点も含めて、原作忠実な映画化とは言えないのに原作読んでないと首を傾げるんではないかという、中村義洋監督「ゴールデンスランバー」の際に書いたのと似たパターンの欠点が細部にあって、傑作「赤目四十八瀧心中未遂」の荒戸源次郎監督にしてはもったいない気がした。
なので観るなら「荒戸源次郎流人間失格」ということを念頭に置きながら原作は読んでおく、がベターかもしれない。
あとこの描き方だと葉蔵の元に次から次へと人が出入りするという流れに終始して映画が進んでいくので、葉蔵を含めて誰に視点を置いていればいいかも困惑してしまった。
でもこの映画観て、やっぱりなんだかんだ言ってイイ男は得だよなあ、と思った(笑)そういう意味ではこの間観て書いたある映画とは逆か。
ところで、何でもこの映画にかかわる際満州を題材にした映画を考えていたって以前トークショーで言ったはずだが、終盤の展開がそこにつながるのだろうか。
まあそんなこんなで誤解を恐れずに言えば、たまたまタイミングとして太宰映画ブームな時期にこの監督たちがそれぞれの視点で挑むことになったという話で、
別に太宰治が好きなわけでもないし、たびたび書いてるように文学は文学、映画は映画だ、映画になれば新たな命が吹き込まれるという考え方だから、
小説通りやれなんて言わないわけで、原作をなぞって描くような映画は堤幸彦監督辺りがやればいいだろと考えているんで、太宰治原作で
どうこうって比較は僕には大して意味がないんだが、強いて言うならやはり根岸吉太郎監督と田中陽造脚本というコンビだった「ヴィヨンの妻〜桜桃とタンポポ〜」が突出していて、「人間失格」と「パンドラの匣」も個性が出てて、これはこれで結果としてそれぞれ楽しめた。
それにしてもこの映画、公開当初は主演俳優のファンで混んでるかと思いしばらくずらして観に行ったのにまだ混雑していた。
右も左も女性ばっか!周囲を全て十代・二十代と思しき女性客に囲まれて観るのも久しぶりで、やっぱりジャニーズ人気ってスゲェと素直に思った。
最近珍しいスター映画現象なんじゃないかな。
パンフレットが川本三郎さんと芝山幹郎さんと豪華だった。買っとけばよかったか。
ところでエンドロールのスペシャルサンクスに木村大作という名前があったはずなんだけど、もしかして「剱岳 点の記」の木村大作監督?だとしたら何をしたんだろ。
ああ、ちなみに一番上の題名は荒戸源次郎さんのことです。