ヒーローショー(井筒和幸)

池袋シネマ・ロサ

ヒーローショー 日本映画

監督・脚本:井筒和幸

脚本:吉田康弘 羽原大介

出演:ジャルジャル

撮影:木村信也

音楽:藤野浩一

製作総指揮:大崎洋 椎名保

http://www.hero-show.jp/

配給:角川映画

☆☆☆★★

井筒和幸監督の新作青春映画。

井筒和幸監督には個人的に思い入れがある。大学生の頃テレビ朝日の深夜番組「虎ノ門」の「こちトラ自腹じゃ!」を良く観ていた。

いま考えると「観賞中に隣の席の女性に話しかけてる人がいたら迷惑だよなあ」なんて思うけど、井筒和幸監督の歯に衣着せぬトークを楽しんでいた。

映画サークルの友人と公開収録なんかにも行ったなあ。

メディア露出が多いせいか色々言われる人だとは思う。でも映画監督にこういう人がいても良いだろう、なんて思う。

映画と関係ない話から入った。

/////

この映画は暴力だ、暴力だと事前に耳にしていて、監督自身も「若者の暴力を見つめてみたかった」なんて言うから、「どんな凄惨な映画になってんだ?」と構えて観に行った。

最初の事件における描写はたしかに陰惨なものだと思ったけど、自分が観る限り、普通にジャルジャルふたりを軸にした青春映画の佳作じゃね?ギャグもふんだんに入ってる。2人が喧嘩してる所に中国人?の中年女性が唐突に登場するところとか意表を突かれた。別に全編暴力沙汰ばっかりなわけでも無し。僕が観た時、劇場はジャルジャル人気なのか若い人が多かったけど、別にヘコんで出ていくような人は見当たらなかった。

良い意味で、そんなに肩肘張った映画では無いと思った。逆にそれを期待すると肩透かし食らうんじゃないかな?

/////

青春映画って難しいよな、って最近思うことがある。だって若者を描くって、若い監督ならいざ知らず、井筒和幸監督は60近いオッサンなわけで、井筒和幸監督に限らず、現代の若者に近い視点になるというより、見つめる視点になるのは止む無しでしょ。

なんでこんなこと思うようになったかって、僕が若者じゃなくなったからだろうな。若い頃なら登場人物たちに重ね合わせてアレコレ言っていただろうけど、そうではなくなってしまった。

しかもこれは原作からの映画化ではなくオリジナル作品なので余計に井筒和幸監督を意識してしまい、それにいつの世も普遍的に通用する若者の姿を描く、というより、確実に現代に射程を合わせてる、と思う。

名台詞と名場面がふんだんに盛り込まれた映画にまでは至ってないので、余計なことを考えてしまったよ。

まあジャルジャルの2人は応えて、体現していたと思う。

/////

以前は大好きだったお笑いも最近あまり観なくなってしまったので、ジャルジャルはコンビ名しか知らなかった。

二枚目のほうに魅力を感じた。彼が公園の公衆便所わきで歯ブラシと歯磨き粉だったかを渡す場面で、視線をそらすとチラっと親子が映る。そんな場面があった気がする。そうやってたびたび視線の先を映し出しているのはニクイ気がした。

知られているように井筒和幸監督作品では以前にもあったお笑い芸人コンビの起用になったわけだけど、特に二枚目のほうには好感を覚えた。彼が演じる人物像にも、役者としての彼にも。個人的には「人間失格生田斗真氏と並ぶ新人男優賞候補だな。タンクトップが似合う。

クシャクシャした顔の方(失礼)は、言ってみれば数か月前に観た「ランニング・オン・エンプティ」の主人公みたいな男の子だった。ただ「ランニング・オン・エンプティ」の主人公は最初から最後まで自堕落でしかない男の子だったけど、それよりは何かを求めていることが描かれている。まあこういうところを観ると、若い監督達とそんなに距離の無い監督なのかな、という気はした。

「井筒さんって最近の流行りの日本映画観てないのかな?」と思ってしまったくらい、部分的な演出や劇中音楽が妙に時代錯誤な感じをさせたり、ジャルジャルふたりの物語として観れば気にはならないけど、他が色々中途半端に終わっちゃったかな?って気もしたけど、結構良いと思う。ラストも、オッサン監督から見て道徳をきちっと通したようにも受け取れるので、これで良いだろう。

言われてみればシリアスなんだけど、どっかトボけた映画だった。あまり構えて観ないほうが楽しめると思う。良い意味で意表を突かれたのとジャルジャルの二枚目が気にいったので5点オマケした。

ランニング・オン・エンプティ [DVD]

ランニング・オン・エンプティ [DVD]

虎の門 井筒和幸のこちトラ自腹じゃ!101本斬り

虎の門 井筒和幸のこちトラ自腹じゃ!101本斬り

パッチギ!的―世界は映画で変えられる

パッチギ!的―世界は映画で変えられる

キネマ旬報 2010年 5/15号 [雑誌]

キネマ旬報 2010年 5/15号 [雑誌]