悪人(李相日)※長文注意
悪人 日本映画
監督・脚本:李相日
原作・脚本:吉田修一
出演:妻夫木聡 深津絵里 岡田将生 満島ひかり 樹木希林 柄本明他
撮影:笠松則通
音楽:久石譲
主題歌:福原美穂
プロデューサー:川村元気 仁平知世
配給:東宝
http://www.akunin.jp/index.html
好感度=☆☆☆☆★(ダンゼン優秀!)
サンイル、本気で書くとよ。
お、俺、か、感動してしもうた・・・
こんな映画が観れる日を、心のどこかで、ずっとずっと待っとった。そんな気がする。
どんなに褒めちぎっても褒め足りないほど好きになった映画なんて、久しぶりな気がするとよ。
もし妻夫木聡氏演じる祐一みたいに車乗っとったら、「早く褒めんと!」と、イライラしてスピード出し過ぎてたかもしれん。それこそ、いらだつ祐一みたいに。
痛快なエンターテインメント「フラガール」以来の映画なんやけど、一転暗い映画を、変に自分に酔うことなく、きちんと観客に向けるように、失速させないままダイナミックな展開で、ドラマとして盛り上げつつ丁寧に描かれていることに、感激したとよ。
美術監督種田陽平氏、撮影笠松則通氏、音楽久石譲氏などなど錚々たるメンバーによって生み出されているスケールの大きさと細部のリアリティも見事やった。
細部と言えば、例えば柄本明氏演じる被害者の父が、始めて遺体に対面した際に、布を足にまで伸ばしたり、序盤深津絵里氏演じる光代が、帰宅してひとりになった際に襖を閉めることで、彼女が女性として誰かを必要としていることと孤独感をあらわにしたりとか、被害者の遺体が発見された際に、引き揚げる警察官たちがもたついてるというシーンで、ウスノロでその後の捜査も遅れるということを予期させるという、まるで警察のヘナチョコぶりが頻繁に描かれる韓国映画のようなシーンとか、そういった随所の丁寧なちょっとした描写に、思わずため息が漏れた。大学生の友人が最後にとる行動も、突き刺さった。
本気や、と思ったとよ。
登場する人たちが、みんな素晴らしか。
モントリオール世界映画祭で最優秀女優賞を受賞した深津絵里氏。納得したとよ。寺島しのぶ氏のブログによると同い年らしく、この2人、凄か。
岡田将生氏。「告白」のウェルテルと全く違う、どの角度から観ても最悪な大学生、見事や。「天然コケッコー」が遠い昔のことのように思えるくらい。
嬉しいのは満島ひかり氏。彼女が出演していると聞けば全く興味がわかないような映画でも劇場に足を運び続けてる人間としては、正直こういう大きい映画で魅力を発揮してるのを観て、もう嬉しかった。彼女をあるところで見かけたことがあるんやけど、声もかけれんかった。そんくらい好きなんや。
樹木希林氏。バスの中の顔面芝居、さすがや。
柄本明氏。調べたら「ゴールデンスランバー」「花のあと」「春との旅」「ケンタとジュンとカヨちゃんの国」「孤高のメス」、こんなに出とるとよ。しかも俺、全部観とるとよ。まだ待機作品があるとよ。なのに、全然嫌な気にならん。観飽きんとよ。
他にも、ちょっとしか出てこない人たちも、みんなみんな大事たい。
でも、一番良かと思ったんは、祐一演じる妻夫木聡氏なんや。
俺が産まれる前の話やけど、「青春の殺人者」っちゅう映画があって、この祐一と同世代の主人公が殺人を犯すところから始まるんやけど、あの映画に主演していた水谷豊氏が「相棒」の右京のような語りで「妻夫木さん、やりますねえ」って言うんじゃなかかって、思ったとよ。
共感というより、物凄く、理解しようと思いながら、観てしまったとよ。
「観てしまった」というのが、正しか。
俺は、地方に暮らしとるわけでもなかし、土木作業員の仕事やったこともなか。家族構成も同じではなか。性格も違か。
けど、俺も、下手やから。
彼の人間としての下手さに、どうしても魅入られてしまったとよ。
こういう倒錯した感覚、阪本順治監督の傑作「顔」以来かもしれんとよ。
だから、最後ああいう結末で良かったと思うちょる。
妻夫木聡氏は次、山下敦弘監督による川本三郎氏の傑作ノンフィクション・ノベル「マイ・バック・ページ」に主演しとるとよ。
待ち遠しか。明日にでも観たかよ。
映画とその映画の原作は、冒涜さえしていなければ基本的に別物で良いっちゅう考え方やけど、正直原作小説読んだ時、「光代ってそんなに悪人かな」とスッキリしないところがあったんよ。
でも、この映画でとてもスッキリしたとよ。だから、映画も小説も合わせて愛すべきものになったとよ。
本当に、映画館でこの映画に出会えて良かったとよ。
以下、追記。物語後半部の詳細に触れますので、未見の方はご注意ください。
上述したように細かな演出で描く前半から一転、群像劇の色濃くなる後半の裁き方も実に見事です。
なんとなくアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督のような巧みさを感じました。あとポール・ハギス監督の「クラッシュ」とか、かな。
そして、日本映画の悪い傾向として、高く評価された後に大メジャーの映画を手掛けると途端に失敗するというパターンが多かったように思いますけど(もしくは、大規模な映画を撮らない、まあこれはそれぞれ映画監督の勝手だけど)、地道なヒットで話題になった「フラガール」から一転、有名人気俳優共演(妻夫木聡氏、深津絵里氏)、注目若手俳優出演(満島ひかり氏、岡田将生氏)、大ヒット小説原作で脚本共同執筆という、ハンパなくプレッシャーがかかる状況であっただろうけれど、それを力あるスタッフたち(種田陽平氏や笠松則通氏など)の手腕もあり、見事にまとめあげた李相日監督は、本当に評価に値すると思います。
それこそ上記した「青春の殺人者」から伝説の大アクション「太陽を盗んだ男」に至った長谷川和彦監督のように。
もうひとつ書き加えておきたいことがあります。ネタバレ。
この映画、僕の解釈ですけど、明確な厳しい結論を提示したと思います。勇気ある結論です。これは僕が普段気にしないようにしてる原作との比較に近くなってしまうのですけど。
殺人者(祐一)、逃避行を共にする女性(光代)、被害者が殺害されるに至った経緯を作った人間(大学生)、そして加害者の親族(祖母)に厳しい現実をぶつけています、それをはっきり描いているのです。
光代は最後に被害者の父を目撃してしまう。大学生は苦々しく最後の捨て台詞を吐くが、友人のやり場のない憤りがこもった行為がそのシーンの最後に用意される、祖母のラストショットも苦い。
それでも、彼らの物語は続いていく。そのことを予期させる。
何か奥歯に物が詰まったような終わりにせず、はっきりと提示している。映画として、こんなに見事な幕引きは無いですよ!
明快な映画です。原作小説とは違う味を生み出した吉田修一氏と、舌っ足らずに終わらず勇気ある結論をした李相日監督は、どんなに賞賛しても足りない!まだ褒めたい!
以下は、中島哲也監督の「告白」に続きこの映画に関わった31歳の若きプロデューサー、川村元気氏の「告白」。角川春樹、亀山千広、山本又一朗の諸氏にも読んでいただきたい。
「悪」の魅力 「告白」大ヒット 2作手がけた東宝 川村元気プロデューサー
http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/entertainment/movie/435695/
同じく川村元気氏のインタビュー記事掲載
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関係ないけど、監督は僕と同じ学校出身で、そんなところも嬉しいです。