息もできないほどの重々しさ「カティンの森」

カティンの森

映画館出た後こんなに肩が一気に重くなった感じを受けたのは、「実録・連合赤軍」以来かな。あれともまたちょっと違う感覚だけど。

実録・連合赤軍 あさま山荘への道程 [DVD]

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岩波ホール・・・で観たんです。ここでしかやってなかったから。東京に住んでても「あれ?これ観たいけど日比谷でしかやってない」とか「恵比寿でしかやってない」とか、こういうことがなんか気のせいか最近多くなってきた気がしないでもない。「シネコンでやってるけど、限定上映だ」とか。

カティンの森

正直に言って、「面白かったですか?」と聞かれたら、予想してたけど見事なぐらい娯楽性ゼロといった感じで、面白いと言える映画じゃありません。ただ、凄い映画だったと断言します。

基本的に、名監督と言われる人が思い入れの強い題材に踏み込んだ作品を手掛けるからと言って良いものが出来るという保障なんてないと思います。ただこの映画は凄い。

まず、観ていてどうしても気になった点がありました。
序盤を除けば、登場人物のどなたにも焦点が定まってない感じがしたのです。
むしろ”焦点を当てようとしてない”と思わされるくらい。
急に誰かが出てきてはまた誰かを物語に戻したりしているような・・・こう書くと人間を描くのに失敗している作品のように聞こえるでしょうけど、絶対にどういう風に描いているか知らないまま観たほうが良い(まあどんな映画でもそうだけど)ヘビー級のラストシーンを観終わった後に、わかった気がしたんです。
これ、狙ってそうしているんだと。
つまり、あえて感傷の入る余地を無くさせることを狙ってるんじゃないかな、と。
ちょうどキネ旬の最新号が手元にあって、特集記事を観終わった後読んだんですけど、確かにそういう感じのこと言ってました。「ファミリードラマのようにはしたくない」

キネマ旬報 2009年12月下旬号

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それでラストがかなり凄いんですけどね。
これ、同じ映像観ていても人によってやはり感じ方は大きく分かれるんじゃないでしょうか。
比較的冷静に受け止めるか、凍り付いてしまうかくらいに感じ取ってしまう人。
僕は確実に後者で、正直画面に何かが宿っちゃってんじゃないか?くらいに凄いインパクトを受けました。
観終わった後もの凄く息苦しくなって、「あー!」って叫びたくなった。
多分その理由は、普段から政治的などうこうとか、そんなこと観賞中はさほど気にせず観ていることが大きい気がする。まあ個人的には映画は、政治的に考え過ぎて観るのはあまり好きじゃないので。
なので興味や視点を登場人物や物語に絞って追おうとするものの、上記のような作風になってるからこっちも戸惑っているままにラストに至ったから、受け止め方がそういったものになった気がしてならない。

何が言いたいかって、観ている間はそんな小難しいことはあまり考えずに観たほうが、ラストが突き刺さるんじゃないか?ってことです。

事前知識が不安だという人も、オープニングで説明があるのでそんなに問題ないです。

しかしいったいあのラストの、妙に伝わってきた怖さというか、とにかく何でこんな打ちのめされるほどに「見えた」んだろう、と考えてたらですね。
なんと金子修介監督がご本人のサイトにこの映画のことを書いておられてて、それを読んでなんか妙に妙に納得しました。
物語に触れずにあんなに見事な文章が書けるとは・・・さすが金子監督だ。観た後に読むとハっ!とさせられた。一切ネタバレしてないので観る前に読んでも問題ありませんよ。

とにかく巧妙な作劇を経ての画面インパクトの好例で、それを感じ取れるか取れないかで大きく変わる映画だと思います。

物語としては結構シンプルなものなのですが、話を捻らなくても「戦争とは、怖いものだ」というのを、肌に感じさせる映画を作ってしまうとは・・・

もし仮に「休みの日に一本」という感じで観る映画かと言われたら?って映画ですけど、ぜひ観て欲しい・・・っ言ったって現在全国でこの映画館でしかやってないんですけど・・・映画館満席で、それで二列目の真ん中という席が映画館観賞独特の拘束されている感じを増してくれたので、もう少し公開規模を増やして欲しいんですけど・・・

【映画がはねたら、都バスに乗って】
カティンの森」:三ノ輪駅前バス停付近の会話
http://blog.goo.ne.jp/ereninotabi/e/0d94fe6f4633f30a58ee32a4a0b28e33


お楽しみはココからだ〜 映画をもっと楽しむ方法
カティンの森
http://otanocinema.cocolog-nifty.com/blog/2010/02/2007-3eb2.html


監督・脚本:アンジェイ・ワイダ
原作:アンジェイ・ムラルチク
脚本:ブワディスワフ・パシコフスキ、プシェムィスワフ・ノバコフスキ
撮影:パベウ・エデルマン
音楽:クシシュトフ・ペンデレツキ
製作国:2007年ポーランド映画
出演:マヤ・オスタシェフスカ、アルトゥル・ジミイェフスキ 他
配給:アルバトロス・フィルム