パーマネント野ばら(吉田大八)
たて続けに劇場で二度観賞。
パーマネント野ばら 日本映画
監督:吉田大八
脚本:奥寺佐渡子
出演:菅野美穂 小池栄子 池脇千鶴 畠山紬 宇崎竜童 夏木マリ 江口洋介 加藤虎ノ介 山本浩司他
撮影:近藤龍人
音楽:福原まり
主題歌:さかいゆう
原作:西原理恵子
エグゼクティブプロデューサー:春名慶
ジャンル:恋愛・友情
配給:ショウゲート
公式サイト:http://www.nobara.jp/
☆☆☆☆★(ダンゼン優秀)
大傑作である。
原作は次々映画化される西原理恵子氏による作品。
監督は「クヒオ大佐」の、というより「腑抜けども、悲しみの愛を見せろ」の吉田大八監督。
脚本は「サマーウォーズ」の、というより「学校の怪談」や「しゃべれども しゃべれども」の奥寺佐渡子氏。
なぜこう書いたかというと、この映画の企画が始まったのが3年ほど前らしく、ちょうど2人が上記2作品を発表した後にあたるようだし、どちらかと言うと「腑抜けども、悲しみの愛を見せろ」と「しゃべれども しゃべれども」に通ずるタッチを強く感じたからである。
主演は、8年ぶりの映画主演となる菅野美穂氏。
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では感想へ。
例えば冒頭の小池栄子氏演じるみっちゃんが車で突っ込んでいくところや、池脇千鶴氏演じるともちゃんの交際男性歴回想場面など、随所に吉田大八監督らしいぶっ飛んだ演出が冴え渡る。
近年山下敦弘監督「天然コケッコー」や、横浜聡子監督「ウルトラミラクルラブストーリー」でも田舎の風景を見事に切り取っていた近藤龍人氏の撮影も、この映画でも見事に映しだし、くわえて音楽も耳について離れない。帰宅しては公式サイトにアクセスして予告編を流し聴きこんだ。
役者さんたちも、みなバッチリはまったキャスティングだ。
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しかし、僕が本当に言いたいことはそれ以外にある。僕はここまで「ほとんど全ての人々とシーンが意味と整合性を持っている」ことが伝わってきた映画を、ここ最近観た記憶がない。つまり奥寺佐渡子氏の脚本だ。
あらゆるシーン・言葉・伏線が、意味を伝えてくるのだ。
「宝石のような素晴らしさ」の脚本と言っていい。ここからそれを解読する。
だからここから先は核心に触れていくので、まだ観てない人は決して読まないでください。ただ映画を観た人は、時間はかからないので”続きを読む”をクリックして、僕の解読に対して意見をくれれば良いな、と思います。お願いします。
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まず冒頭、走る自転車のタイヤが映って、子供の声で「なおこ」と呼ばれる声がした後に、なおこ(菅野美穂)がウツラウツラと眠りから覚める。”ウツラウツラと眠りから覚める。”が重要だ。この映画には何度も、”ウツラウツラと眠りから覚める。”場面が登場するからだ。
次に「野ばら」の場面。ここではパンチパーマのオバちゃんたちと母まさ子(夏木マリ)が「チンコ」を連呼しながら会話している。”「チンコ」を連呼”。それが何?と思うだろうけど、後に繋がる。
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みっちゃん(小池栄子)の場面にいってみよう。ダンナに店のオンナと浮気され、オンナに復讐を試みるも失敗してダンナを轢いてしまうわけである。そこから病院の場面に移るわけだが、ここでのみっちゃんとなおこの会話が重要だ。
みっちゃんはなおこに対し、「どんな恋でも無いよりマシやき。好きな男がおらんなるのは、うちはガマンできん」と、”何とも含みのある”言葉をかける。
ちなみに母の再婚相手(宇崎竜童)も、なおこに対して「良い恋をしろよ」など様々な言葉をかける場面がある。
では、みっちゃんの変なオヤジ(本田博太郎)は何だろう。彼がチェーンソーで暴れた後に、焼き肉屋に移動する。
ここでみっちゃんは、オヤジよりもなおこに語りかけるように、「過去にとらわれた人だから」というニュアンスの言葉をかける
。
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今度はカシマ(江口洋介)となおこが会う場面に言及する。
カシマは、ある言葉をなおこに言う場面がある。
「貴女はもう大人なんだから、一人でも生きていける」こんな感じだ。
そして学校の階段で、すれ違った生徒は教師であるカシマに対し、挨拶もしない。生徒が教師に対して、挨拶もしない。カシマも
生徒に挨拶をしない。この場面もひたすら重要だ。
そして2人がトンネルで愛し合う場面。別れて彼女が振り返る視線の先には、”確かにカシマの姿がある”
上記2つも後に繋がる。
2人が旅館に行く場面。なおこが眠りから覚めるとカシマは唐突にいなくなっている。ビール瓶は蓋が空いておらず、カシマが乗ってきたはずの車は無い。
その後なおこが泣きながら公衆電話をかける場面。公衆電話の先からはカシマからの声も返ってこない。カシマが話す場面すら映らない。
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山に母となおこで出張美容室をする場面。ここにも気になる箇所がある。
あれだけ普段から「野ばら」で、オバちゃんたちの「チンコ」という会話を聞いているはずなのに、山小屋の老人2人と母の会話の中で、母が「チンコなんて下品な会話ばかりでうんざり」みたいなことを言っても、なおこは「知らない」と言う。
いつも”夢の中にウツラウツラしているから、みんなの話を聞いていない”かのようにだ。
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野ばらに集うオバちゃん達も、「その他大勢の田舎のオバちゃん達」ではない。彼女たちの中でただ一人”パンチパーマを止める
”オバちゃんがいて、"パンチパーマを止めることで、他のオバちゃん達とは違う経験をするオバちゃん"も描かれる。
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最後に、ともちゃん(池脇千鶴)に言及しよう。ともちゃんは、なおこと二回山に行く場面がある。
手にあるものを埋めるためだ。「傷が残った猫」と「お金」だ。
これはともちゃんが精神的・宗教的に、なおことみっちゃんの「痛み」を「埋めることで癒し、消してあげたいと願っている存在」だという暗示だ。
なぜ、ともちゃんがそれを出来るのか。それは三人の中でともちゃんだけが、”物語の中では、既に男からは解放されている存在”だからだ。
「傷が残った猫」は、「肩に傷のある」なおこだ。「お金」は、「お金で男に振り回された」みっちゃんだ。
そしてともちゃんはなおこから、「隠していたけどカシマと付きあってる」と言われても、「知ってるよ。前から。」と言う。なおこは「言ったっけ?」と言うのだけど。
それでも優しく笑いかけ「人は二度死ぬ。人の心の中におらんようになったら最後。今度こそ死ぬ」と言う。
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その後海辺で、なおことカシマの”デート”にみっちゃんが来るが、みっちゃんがなおこに語りかける際には、カシマの姿は消えている。
その後に手早いカットで描く「回想場面」が入る。女子学生の後ろ姿と同様に、カシマの遺影なども映る。
その中には「誰の姿もないトンネルの出口」や、「学校の階段でなおこと女子学生だけがすれ違う」映像も入る。
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映画の中でなおこは、既に存在は無いカシマと、ウツラウツラと夢見心地の中で生きている。みな、それを知っている。みな、それを見守っている。
最後、娘のももに声をかけられる時のなおこは、大地と手を握っている。「埋めてしまっても、彼女は思い出を離さない」。彼女はこれから先も、カシマを愛し続ける。
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